11月、状況が特殊なは相変わらず担任らと個人面談を繰り返していたが、保護者相当の親族が不在なので全てひとりで対応しなければならなかった。このところ毎回のように話題が出るので正直うんざりしているのだが、今日も担任は公延との生活を案じてきた。
「そうは言っても20代の男性だろ。もう入籍しちゃってるとはいえ」
「私も向こうも忙しいし、家で一緒になる時間てすごく短いですよ」
「でも塾辞めちゃっただろ」
「その代わり英語の短期講座始まりましたけど」
「すまん、それはのプライベートだって分かってるんだけど、どうしても気になって」
担任の親心にも似た干渉自体を迷惑には思っていない。結果としてキリエらのそういう「お節介」がの受験を可能にし、母親の夫の召使いから解放してくれた。なのでそれ自体は有難く思っているのだが、担任はいつも公延ばかりを疑うので、彼に恋している状態のにとっては不快な話題だった。
「前にも言いましたけど、私たち夫婦って感じはないですよ」
「そりゃそうだろうけど、危険を感じることとか、ないか? 言いたいことが言えなかったり」
エマの頷く顔が見えるようだ。この世界のどこにでも溢れている数多の「問題」は基本的にはシンプルな構造をしている。パートナーの名のもとに誰かを支配し、自由を奪い、操る。だが公延にそういう傾向が見られないのも事実なので、は否定を繰り返している。
「もしそういうことがあったら、いとこ夫婦にすぐに言ってます」
「えーと、ああ、この高梨さんな。まあな、そもそも親戚なんだもんな」
「あと、幸い彼のお義母さんとは親しいです」
「えっ、お姑さんと仲いいの?」
「……先生こそ私達に夫婦ってフィルターかかってません?」
「……すいません」
まあその義母が常に孫というフィルターを通してを見ていることは黙っておいた方がよさそうだ。
「先生が心配してる系のことは、本当に心配しなくていいと思う。彼は未だに私の先生だし、おじいちゃんおばあちゃんから私を預かってるって感覚だし、そのいとこ夫婦の高梨さんの妻の方が色んな意味で怖いし、この結婚でリスクを負ってるのは向こうだし、私に危害を加えるような真似は絶対しないと思う」
担任の顔には「それはわかってるんだけど」と書いてある。
「というか彼、元義父がキレて怒鳴り散らした現場にいたんです。一体あの人が私をどれだけ不当に扱ってきたかを目の前で見てるから、同じようなことをしたら元義父みたいな人間になってしまうって、いつもそういう意識があると思います。だから家の中のことも基本、自分のことは自分で、ですよ」
だがつい喋りすぎたか、長年高校生を指導してきた担任の目の色が変わった。
「……彼を好きになったのか」
「……元からです」
「元から?」
「カテキョで知り合ったときから、憧れみたいなの、あったので」
当時公延はまだ24歳。すっかり大人気分の15歳のには大人ではなく「お兄さん」に見えた。それはエマが思い込んだのと同じ感覚で、大人と子供という自覚はなかった。実父や元義父のような強い圧もなく、親しみやすくて、背が高くて、付き合うならこんな人だといいのになあと思った。
担任は静かにため息をつき、いつもと同じ言葉で締める。
「たくさんの人の助けで受験生になったってこと、忘れるなよ。取り返しのつかない真似、しないようにな」
きっと「妊娠するな」と言いたいのだろう。夫にそれを強要されないか気になって仕方ないのだろう。
教室を出たは鼻で笑った。なに言ってんだ、妊娠気をつけろどころか、公ちゃんハグが限界なのに。別にキスくらいならいいのにね。ていうか妊娠したらお義母さん喜ぶんだろうなあ。私が育ててあげるから大学行っていいわよとか言いそう。
だが、にとっては現在、もっと面倒な問題があった。ヤマトである。
そのことについては既に担任にも報告済みで、仮にも自分は結婚している身だし、彼と遊んでいる暇があるならエマや家族のために時間を使いたいと言ったのだが、余計なことを言えない手前、担任は「が嫌がっているならやめなさい」という指導しか出来ずにいた。当然本人は聞く耳を持たない。
ヤマトがしつこいのでエマとの昼食は場所を転々とし、最近は灯台下暗しで学食の片隅に落ち着いていた。音羽東の学食は広いが利用者も多く、人の目が多いので、一匹狼を気取っているらしいヤマトがに絡むのには向かない。とエマも慣れてきたので、木暮家の話も当たり障りのない表現で通じるようにもなった。
「たちはクリスマスとか年末年始どうするの」
「クリスマスは普通に予備校じゃん。エマもそうでしょ」
「だから聞いてんだよ。お正月とかは?」
「まだそういう話出てないなあ。てか私、受験かなり大丈夫そうなんだよね」
「そりゃそうだろうね。かなりランク下げたもんな〜」
その点ではエマの方が安全圏を出たり入ったりで、彼女の親の方がハラハラしているらしい。だがはエマと同様の進路を目指していた頃の学力を保持しており、現在の志望校は正直かなりレベルが低い。なので年末年始など毎日勉強漬けだと焦るほどでないのは確かなのだが……
「何も話してないけど、たぶん公ちゃんの実家は行くと思うし、私は出来ればおじいちゃんおばあちゃんに挨拶しに行きたいんだけど、そこは相談してからだし、あんまり早くからイベント時期の話をすると先生モードになって叱られる可能性はあるかも」
エマや担任が気にするような抑圧はないものの、公延自身が教職のせいか、とにかくいつでも受験最優先という姿勢は崩したことがない。なので予定の相談のつもりでも、彼にはクリスマスと年末年始の予定を立てて浮かれているように聞こえるかも、という心配はあった。
「だからまだ未定だけど、なんかあった?」
「ううん、うちの正月マジでおせちとお雑煮しか出てこないから唐揚げ作ってもらおうかと」
「また唐揚げかよ」
「それしか楽しみないんだよ〜レオン様最近動きないし〜」
かといってこの受験シーズンにレオン様がニューリリースとツアー開始になってしまったら目も当てられないわけなので、エマは受験勉強の息抜きになるような軽い楽しみを探していたのだが、見つからないまま11月に突入。唐揚げしか残っていなかった。
しかしエマに言われるまで年末年始というイベントシーズンを全く意識していなかったことに気付いたは、そういった家族単位のイベントすらしばらくぶりなのだと思い出し、このところ忘れがちになっていた「母のいない寂しさ」までもを思い出してちょっと切なくなっていた。
母が生きていた頃の元義父はイベント命というタイプで、それは実父も同じだったらしいので、要は母はマヤの言葉が図星だったのだろうと今ならわかる。実父と元義父は外見や印象こそ異なるが、中身はほとんど同じ人間であり、どちらもが邪魔だったのだ。
だから実父はふたりを捨てて出て行き、元義父はを除け者にして母とふたりでスペシャルな1日を過ごしていた。母はどうだったのだろう、一緒に行かないかと誘われたことはあったけれど、その向こうの元義父の顔は不機嫌そうだったし、も「母とその夫」のデートみたいなものに同行したくはなかった。
改めて振り返ってみると、母はに何も残してくれなかった。僅かな遺産はあったけれど、例えばお正月の過ごし方、母子にとっての恒例、家族が繰り返す景色、そういったものは残っていない。いつでも実父や元義父の望む過ごし方に付き合わされていただけだ。
けれどもう母が戻らないことは覆らない。母から受け継ぎたかったものは自分で作っていくしかない。
なので考えたは、公延の予定を確認するという体で聞いてみることにした。が、
「なんか安全圏過ぎて難関狙いの子みたいに詰め込む必要感じないんだよな〜」
また頬を人差し指でほりほり掻きながら、公延もエマと同じことを言った。
「そっか、正月か。オレも考えてなかったな」
「公ちゃんの実家には挨拶行くと思うんだけど」
「あ〜まあな〜それはな〜」
「……行きたくないわけね」
「正直めんどくさい」
「公ちゃんの一番悪いとこだよね、それ」
特に結婚以来母親が鬱陶しいので、公延は実家とは最低限の関係でいたがる。だが言われてみれば結婚の騒動以来、父親に顔も見せていなかった。母が孫欲しさに世話を焼きすぎる一方で、父親はまったく連絡を寄越さないという極端な両親だった。さすがに正月くらいは挨拶するべきかもしれない。
「それと〜もし公ちゃんがよければなんだけど〜」
「どした」
「うちのおじいちゃんとおばあちゃん……」
「あ、そ、そうだよな、それは、うん」
「日帰りでいいから……」
の母方の祖父母は遠方に住むけれど、向こうでの滞在時間を短くし、朝に出て夜に帰ることが出来るなら日帰りは不可能ではない。公延的にはむしろ自分の実家より優先すべきものかもしれないと思えた。
「あともうひとつ! これは本人から!」
「本人? なにこれ手紙? エマちゃんじゃん…………また唐揚げ!」
エマ直筆の唐揚げ要望書メモを読み上げた公延は仰け反って笑った。9月に招いた時のエマはが作った唐揚げを次から次へと延々と食っていた。それも一緒に思い出したのかもしれない。公延は珍しく大爆笑したのち、エマのメモを眺めながら、ゆったりと微笑んだ。
「実はシュウジたちが年末年始の中で1日くらいって、言ってたんだよな」
「うちに来たいの?」
「うーん、というより、どこか出かけない、みたいな感じだった」
「公ちゃんは友達とか予定ないの?」
「……まあ、今のところは」
「忘年会とか」
「職場は何年か前に忘年会廃止になったし、国体の時に大学の同期は会ってるから」
「晴子さんたちは?」
「それもうちなのかな」
しかし公延はずっと優しげに微笑んでいる。公ちゃん幸せそうだな、とは思ったのだが、なぜそんな表情なのかがわからない。年末年始に身内や友人との予定を考えるのがそんなに楽しいのだろうか。それが気になったは正直に聞いてみたのだが、
「……うん、なんかさ、今までこういうことって、自宅からひとりで出かけて外で済ませてくることだったなって思って。でもこの家で人を招いてやることなんだろうな、ってことがこんなに増えて、改めて今この家が自分のホームグラウンドで、家族なんだなって、そう考えたら少し可笑しくて」
そんな公延の言葉に、の胸は潰れるかと思うほどにときめいた。公ちゃんそれって私が家族だからでしょ。ここが、私がいるこの家が自分の基本なんだって、そう思ってるからでしょ。この間怖い思いしたけど、公ちゃんにこんなふんわりした優しい感情が芽生えるなんて!
ひとまず、それぞれの予定が具体的な状態になってきたらすぐに報告、と締めたけれど、は自室のベッドで枕に顔を押し付けてバタバタと暴れた。公ちゃん、私と暮らしてんの幸せなんだ!!!
ひとしきり悶えたはしかし突然がばりと顔を上げると、クリスマスの話が出ていないことに気付いた。
実際クリスマスもイブも当日は予備校。それは変わらない。しかし深夜に帰宅するわけでなし、公延の方に予定がないなら、またカフェドライブでもいいんじゃないか、とはひとりで妄想し始めた。公ちゃんサクラ先生の一件以来私に惹かれてるのかもしれないし、クリスマスに車ん中でふたりっきりで、それはもうチューくらいしちゃったっていいのでは!? てかプレゼント何にしよう!?
どこかに出かけられなくていい、公ちゃんとクリスマス、大晦日、お正月を一緒に過ごせるだけでこんなに嬉しい。楽しみ。イベントを一緒に楽しめる人がいるって、ほんとに幸せなことなんだな。安全圏続いてるけど受験頑張って、必ず合格して、そしたらバレンタインもやろう! 私手作りチョコとかやったことないから、私の初チョコを公ちゃんに捧げる!
冬のイベントシーズンがこんなに楽しいなんて知らなかった。こんなに楽しいことが毎年続くなんて、私、公ちゃんと結婚してよかった。ずっとずっと公ちゃんとそういう年を繰り返していきたいな。
そう思えば勉強にも身が入る。少しずつ冷たい風が吹くようになっていたけれど、の心は暖かいまま、きっと母という大事なものを失ってしまった自分だからこそ、公延やエマや高梨夫婦という人々に恵まれたのだろうと思っていた。
相変わらず暇なヤマトに絡まれることは多かったけれど、僅かな時間でも公延とふたりきりのクリスマスが待っていると思えば、以前ほど気にならなくなった。ヤマトは自分勝手な理屈でを支配したいのだろうが、がそれに応えることは永遠にない。
そして12月に入り、相変わらずが安全圏であることを確認した公延は、の家への日帰り挨拶を決めた。先方にも確認を取ると、の叔父家族が年末年始は旅行だというので、2日に行ってしまうことにした。なので木暮家への挨拶は元旦、ということはエマは3日、高梨夫婦の入る隙間がなくなってきた。
それとなく話を聞いた赤木兄妹は、特に晴子の方が遊びに来たがったらしく、の予備校が4日からという事情もあるので、エマと同日の3日に来てもらうことにした。エマは昼の部、赤木兄妹は夜の部。
そんな風に予定が少しずつ出来上がっていくと、の期待は膨らみすぎて弾けそうになっていた。そういうハイテンションがブースターになったのか、期末では受験クラスを押しのけて学年50位に食い込み、それを下回ってしまったエマに「受験終わったら唐揚げパーティな」と脅される始末。
しかしそもそも音羽東には難関狙いがほとんどおらず、受験勉強が思うようにいかずにピリピリしている生徒がいなかった。そのせいかどうか、クリスマスイブの昼頃、「今日20時にA駅のマック集合、受験組で30分だけクリパやるよ」というメッセージが送られてきた。
エマに確認を取ったところ、受験組はA駅を中心に数駅の範囲の予備校に行っている生徒が多いようで、A駅近くの大型ファストフード店で集まろうという話になったのだという。参加は自由、30分という期限付きだが、いつ帰るかも自由。ナゲットにコーラで気分だけファストに味わって帰ろうという主旨のようだ。
24日は既に冬休みに入っているので、の予定は例によって朝から18時まで予備校。公延は急遽必要な仕事が入ってしまったとかで、帰宅が遅くなりそうだと話していた。なのでは予備校での自主学習を少し延長することにして、そのファスト・クリパに出てから帰ることにした。
それなら公延と一緒に夜を過ごせるし、いつも利用するカフェのドライブスルーは23時まで営業しているので、間に合うはずだ。翌日も朝から予備校だが、仮にも受験生、夜ふかしは慣れている。
だが、当日のファスト・クリパは大混乱。いくら大型店でも高校生数十人を楽々収容できるほど広くはなく、また24時間営業の店舗だったので客は多く、ナゲットにコーラで騒ぐ高校生に絡む大人がいたりで、やエマのような普段大人しいタイプは居心地が悪くなっていた。
30分という期限付きだった集まりだったが、とエマを含む十数人は早々に店を出て、飲みきれなかったコーラやホットココアなどを手にしたまま、駅前で喋っていた。クリパひどかったけど、なんかそれも思い出になるって感じだね、などと言っては笑っていた。
そうして20時半が近付いてきたところで解散になった。といってもA駅から上りと下りで分かれるだけだったが、それぞれ自宅に向かおうとしていた。するとそこにヤマトが現れ、呼んでもいないのに輪の中に入ってきた。今日のヤマトはダウンジャケットにトライバル柄のインナー、そしてバギーパンツとニット帽という典型的な出で立ち。受験生ばかりの集まりなので全員一斉に身を引いた。
しかしヤマトの目的はひとりなので、それを察して皆逃げるように帰ってしまった。エマは残ってくれたけれど、残念なことに彼女は上り、は下り。
エマはそれでもずいぶん粘ってヤマトを追い返そうとしてくれたのだが、エマが抵抗したところで効果はなかったし、公延に助けを求めるべきなのかどうかは判断できなかった。結局は下りの電車がやって来たタイミングでエマと別れ、勝手についてくるヤマトを無視しながら帰路についた。
何やら話しかけてくるヤマトだったが、彼はいつも腕を引っ張ったりなど体には一切触れてこない。なのではイヤホンを差し込んで英語のヒアリングの予習をしつつ、最寄り駅についてからは片方だけのイヤホンでバスに乗り、脇目もふらずに自宅へ向かった。ヤマトもついてくる。
これを通報してもいいものかどうか、は迷った。ただ追いかけてくるだけだし、追いかけてきたのはこれが初めてだし、もしヤマトがまだ17歳で未成年なら、注意されるだけで終わってしまうかもしれない。それを逆恨みし、夜道は危険だから送っていっただけなのにとまた被害者面をされても面倒だ。
それに既に冬休みなので、が年明けからほとんど登校しないことを考えると、ヤマトとは街中で偶然遭遇しない限り、学校で会うこともなくなる。もし明日以降も不自然に遭遇するようなら、今度こそ担任に報告の上、ヤマトの保護者に厳重注意を願い出なければならない。
ヤマトはそのリスクを充分に理解しているような気がした。これ以上やると自分の方が不利になる、その境界線を弁えているように見えた。だからしつこく誘っては来るが、実力行使には出ない。
というか今更ながら、ヤマトの「好意」は恋愛感情ではないような気がしてきた。彼のプライベートは何も知らないが、就職クラスにいながら受験生となったに対して、何らかの鬱屈した思いがあったのかもしれない。だからきっと、校内から受験生が消えてしまえば、彼の妙な執着はその形を失うのでは。
はバスを降りても着いてくるヤマトを無視したまま自宅まで帰り着くと、サクラ先生の時のように門をしっかり閉め、振り返った。ヤマトは門に寄りかかり、手を伸ばしている。
「イブ、一緒だったな」
「勝手に追いかけてきてそれ? 言ってること異常だって早く自覚した方がいいよ」
「ひど。送ってあげただけだろ」
「また被害者面? そろそろ止めないと学校を通して親に抗議するけど」
「そこまで? オレがなんかしたの?」
「私を不愉快にさせて、怖がらせて、迷惑行為を続けてるでしょ」
「オレそんなことしてないけど」
「してなくても私がそう感じてるから、迷惑行為なの。今日までは黙っててあげるけど、明日はないからね」
ヤマトはぼんやりとした半目で手を伸ばし、その手のひらでに触れようとしていた。
「なー、なんで受験なんかすんの」
「大学に行きたいから」
「なんで大学行きたいの」
「もっと勉強したいから」
「なんで勉強したいの」
「これからも、自分の意志で生きていくために」
ひとりの人間として、公延の家族として、母の娘として。
「もう帰って。私はあなたのこと、好きじゃない。もう二度と私に話しかけないで」
ヤマトは何度か「やだ」と繰り返していたが、やがて振り返るとそのまま去っていった。特に問題は起こらなかったけれど、これは明日にでも担任にチクらねばならないな……と思いつつ、なんとか追い返せたので、はやっと家の中に入った。まったくもう、せっかくのイブが台無しだよ。
ただいま〜と言いつつ振り返ると、公延がダイニングで腕組みで立っていた。
「ただいま。どしたの」
「……今の、誰だ」
幸せになるはずのクリスマスイブ、木暮家のダイニングに12月の冷たい空気がピンと張り詰めていた。