「!」
「うい」
「!!」
「っす」
「!!!」
名前を呼ぶたび肩を叩いてくるエマに、はデレデレと目尻を下げていた。
「まじ改めて公ちゃん上玉じゃんか……!」
「いやまじで公ちゃん上玉だから〜」
「なんであんなの残ってたの? あーいうのはさっさとキープされてるもんだと思ってたよ!」
「思ってたよ〜!」
木暮家で唐揚げをたらふく食った翌日、エマは我慢できないといった様子で肩を叩いてきた。しかし朝はいつもギリギリに登校してくるエマなので、話は昼休みに持ち越された。最近は話の内容が具体的になってきたので、ひと気のない場所で話すようにしている。本日のランチは小体育館のロビー。教室から遠いので人気がない。
「えってかほんとに背高かったね? 180とか盛ってんだと思ってた。マジであるなあれ」
「でも最後に測ったの大学入ってすぐだったっていうから、もしかしたらもうちょっとあったりして」
「細すぎず筋肉すぎず、手もいい感じ、メガネ男子をよく理解してる前髪、けっこう肌きれい」
「んへへ〜そうなんだよ〜この間風邪引いてた時触っちゃったよおでこ〜」
「それよ。風邪の時結局どうだったん」
ふたりがわざわざ学校でこんなことを話さねばならないのは、そもそも受験生という事情もあるけれど、が廊下の向こうに公延という自室の状況で彼への恋バナ通話など出来ないからであり、なので毎日同じ学校に通っている仲でも情報は滞りがち。
「公ちゃんめちゃくちゃ優しかった。優しすぎた。風邪の時あんなに優しくしてもらったの子供の時以来」
「まじか……」
「てか伝染しちゃいけないから、ご飯とかは部屋で食べようと思ってたのに、ダイニングで食べなさいって」
「それはがひとりで食べてると寂しいだろうからってこと?」
「たぶんそう。私がご飯食べてる間は向かいに座って相手してくれたり」
「ま〜じ〜か〜」
「だからもう公ちゃんが倒れた時はヤッター! とか思っちゃって」
「弱った公ちゃんは」
「最高」
「最低」
エマは笑いすぎて涙目だ。
「でも、エマにはどう見えた?」
「んー、でも私はもうフィルターがかかってるから、ふたりは夫婦なんだなって感じにしか」
「でも実際は夫婦らしいことは何もしてないわけでしょ」
「あーまあ、それはね。そういう意味での甘さみたいなものは感じなかったけど」
エマは相変わらず木暮夫婦の間にラッキースケベ的なことを期待しているが、も公延もだらしない性格ではないので、その手の間違いは起こりそうにないのが現状。むしろその風邪が結婚以来唯一のハプニング。
「私さ、自分たちとそんなに年が変わらないような若い夫婦とか見るとさ、つい『この人たちヤッてんのか〜』って思っちゃったりするんだけど、あんたらにはそーいうのはないのよ、ないって知ってるから。だけど、公ちゃんの態度っていうの? 最初はなんか緊張してたけど、最後の方は緩んできてさ、に声かけるときとか、普段の生活の話するときとか、すっかり『オレが夫です、これが妻です』って雰囲気に見えたんだよね」
聞きながらは自分の頬がどんどん緩んでいくのを感じていた。公延より自分のことをよく知るエマの目にも、自分たちの「普段の雰囲気」はもう夫婦レベルなのだ。だがエマは遠慮がちに声を潜めた。
「……ねえ、公ちゃんて説教とかする?」
「説教? どういう?」
「怒るのとは違くて、親みたいに『これはこういうものなんだから、こうしなさい』みたいな」
「えー、そんなの聞いたことないなあ」
「そ、そっか……! よかった」
意味がわからないは首を傾げ、公延との共同制作である弁当を口に運んだ。自宅でふたりでのんびり過ごすという時間がないせいもあるが、結婚以来ふたりでダイニングテーブルで真面目に話すことは基本、会議状態であり、最近は防災や不測の事態の備えの話が多い。
それに公延はの生活の細かいところにまで口を出して来ない。出さないというより、あまり見ないようにしているといった雰囲気だ。それには元義父に抑圧されて暮らしていた頃の癖が抜けなくて、生活に関わることはキリエに言わせると「ケチくさい」らしく、無駄遣いを指摘されるなんてこともない。
なのでエマの言うようなことはないのだが、なぜ親友はそれに安堵しているのだろうか。
「……あのさ、これ初めて話すんだけどさ、引かないって約束してくれる?」
「え、うん、わかった」
「私ね、高校受験の時に通ってた塾の先生に、洗脳されたことがあって」
驚いたは箸を取り落としそうになって、慌てて両手で掴んだ。
「実際さ〜かっこいい先生だったんよ〜。年は確か30くらいだったかな、背はそんなに高くないけど、も〜睫毛バッシバシで、キリッとしてて、小顔で、上半身のラインがすっごくきれいで。ほとんど恋してたんだよね。家が近くだったから駅とか本屋とかで偶然会うようになって、私も好きだったし、もしかしてこれって、付き合っちゃうのかも! とかすごい浮かれてて」
エマは一見して派手な美少女というわけではない。推し活の時はそれに限らないらしいが、普段は目立つ化粧や振る舞いを好まず、同様勉強には真っ向から取り組むタイプ。なので少し意外だった。
「知り合ったのは春くらいで、まだ全然余裕があったし、会ったらお茶とかするようになって、塾でも教えてもらってたけど、家が近かったから、そのうち先生の家に、行くようになっちゃって……」
それでもすぐに何かされたわけではなく、先生は本当に勉強を見てくれたり、息抜きと称してゲームを一緒にやってくれたり、優しいお兄さんのようだったとエマは記憶している。だが、しばらくすると先生はエマに「大人」として色んなことを教えてくるようになった。
「最初はたぶん、勉強の延長の雑談だったはずなんだけど、それが飛躍して、世の中のこととか、政治のこととか、先生の考えみたいなものをくどくどと聞かされるようになって、だけど私はその時、大好きな先生が言うことだからって、なんでも信じてたのね。先生が私に嘘をつく理由がないって」
そして中3の秋頃、エマは先生の自宅で性的暴行を受けた。
「え!?」
「と言っても、えーと、ほんとにエッチしたわけじゃなくて、触られたり、咥えさせられたりだけど」
「嘘でしょ……エマ……」
「そういうの嫌だなってちゃんと思ってたのに、断ったら嫌われると思ったんだよね」
だが、先生との逢瀬は徐々に性行為が中心になっていき、それだけのために呼び出されるようになったところでエマは不審感を抱き、自分たちは付き合っているのかと聞いてみた。当然うまくはぐらかされ、そんなことはいいから早くフェラしてと詰め寄られたことでエマは自分が置かれている状況を初めて疑った。
そしてちゃんと付き合っていないなら、こういうことはやめたいと言ったところ、なぜか説教を食らい、自分は誘ってない、そっちがしつこくつきまとってきたからだろ、証拠は残ってるんだからな、と恫喝してきた。恐怖で竦み上がったエマが後で確認してみると、メッセージやメールのやり取りは全て、先生には積極的な意志がないように読める文章になっていた。
「あいつ常習犯なんだと思うよ。実際にイケメンだから次から次へと女の子が寄ってくるし」
「それどうしたのよ、受験の時だったんでしょ」
「なんとか理由を作って他のとこに移った。ていうかもう、逆に闘志が湧いて必死だった」
彼の教えを鵜呑みにし、彼の思想を正しいと思い込み、結局は道具のように扱われていたことに気付いたエマは、そんな愚かな自分に腹が立ち、もう二度と騙されたくないと奮起した。そして現実の男よりも、ステージやモニタの中にいる王子様を選んだ。
「つまり、あいつは私に色んなことを教えて、お前にだけ真実を教えるから、それをよく学んで賢く生きようみたいなことを言って、自分の言うことを疑わせないようにしたんだと思うのね。だから私は何の疑問も持たずにキスして、胸とか触らせて、してほしいって言うから、フェラまでしたの。最初は嫌だったけど、そのうち自分はこういうことが出来る女なんだ、周りの友達より先に進んでる、もうガキじゃないから余裕、大人の女だから当たり前のことなんだって思い込んで」
当時のエマに暴行を受けている認識はなく、超年の差カップルだから関係は秘密にしなきゃいけないし、出来ることに限界はあるし、でも愛し合いたい気持ちが止まらなくなっちゃったんだ、先生は私を大事にしたいからセックスはしないんだ、だから私は愛されてる――と解釈していた。
「……だから、それだけは注意してね」
「公ちゃんが説教してきたら、ってこと……?」
「そんな人には思えなかったし、大丈夫だと思うけど、を支配したいと思えば、出来るから」
ただでさえ衝撃の告白だったのに、それが自分の生活に絡むかもしれないという事実には目を回していた。公延はどちらかと言えば婚姻関係を制度の利用にしか感じていないようだし、そのぶん性的な関わりはあってはならないと思っているようだが、支配、抑圧は性的でなくても起こる。元義父のように。
「同じ『年の差』でも、私とのケースは全然違うし、の場合は信頼できる親戚もいるから、まさかあの公ちゃんが実はを自分の自由に使える女にしようと思ってるとは思わないよ。も公ちゃんが誠実な人だって知ってるから恋したんだし。ただ、絶対に私みたいなことが起こらないとは、限らないから」
は親友の告白が嫉妬や妬みからくる「不安を煽る」ものではないと感じていた。ずっとの境遇には同情を示してくれて、手も貸してくれて、公延とのことも何も疑わずに受け入れてくれた。だからこれは、彼女がたったひとつだけ心に隠していた心配だったのだろう。
頷くにエマは「もうこの話は終わり! なんか他に面白いネタないの」と言って箸を突き出して来たが、エマを喜ばせてやれるようなネタはなかった。
そんな親友の話を聞いてなお、は公延への恋心を否定できなかったけれど、それとは別のところで、「大人になりたい」と思った。現在同じクラスの女子の中には、女子高生でいられる時間が残り少ないことに絶望すると言う子がいたけれど、にとってはこの制服を脱ぐことは、自分が大人として自立していけるかどうかの、最初の一歩のような気がしていた。
公延とは夫婦でいたい。自分の恋が彼に伝わり、思い合うようになり、名実ともに愛し合うようになりたい。けれどそれはふたりの関係の話だ。自身が大人になり、他人に蹂躙されない生き方をするということは、公延とは関係がない。そのために勉強に必死になったというエマの気持ちがわかる。
私たちは誰かに操られていながら、賢く立派な人間だという自惚れを餌に、全てが自分の意志だと思い込まされている。そんな風に誰かの操り人形にならないためには、学ばねばならない。自分の頭で疑い、考え、答えを探すしかない。支配の手が伸びてきた時に、その意味に気付けるようにならなければ。
「ごめん、気分悪かったよね、ご飯食べてんのに」
「えっ、違う違う! つらかった、よね、って。なのにいつも元気で、えらいなって」
「まあ、1年も経たないうちに彼氏欲しいって思ったときには自分で笑ったし」
言いながらエマはまた笑う。塾の先生を許すことは出来ないだろうが、それとエマの幸福はまた別問題だ。もそんな正直なエマの笑顔にやっと笑えた。そういえば私も元義父のことでつらかったけど、公ちゃん好き〜ってなるの早かったしな。恋ってすごいな。
「あー、そういえば、公ちゃんのお母さんならちょっと面白いかも」
「えっ、それって姑ってことでしょ。なに嫁姑バトルやってんの」
「いや逆。お義母さん孫が欲しくて欲しくてしょうがないらしくて」
「本人たち超プラトニックなのに親が早くやれって言ってんの!? ウケる〜!」
親友の笑い顔を見ながら、はまたたくさん唐揚げを作ってやろうと思った。そして普通の友達と同じように自宅に招いて、いつまでもこんな風にバカ話を出来る関係でいたいと思った。
――という幸せなランチだったのだが、そんなことでキャッキャしていると、小体育館のロビーに音もなく人影が現れ、お喋りに夢中になっていたふたりは間近にその人物が近付いてやっと気付き、驚いて飛び上がった。ここ人気なくていつも人いないのに、なんだよ!
「あれ、じゃん」
「あ、ヤマトか。どうしたの」
「どうしたのって、ここはたまに来るけど。昼寝しに」
見ればそれは現在と同じクラスのヤマトという男子生徒で、彼は着崩した制服に猫背で足を止めた。確かにこの小体育館のロビーは人もいないしエアコンで適温に保たれているし、壁に造作のソファがあるので昼寝にはちょうどいい場所だ。
「昼寝? うちらまだここで話してるけど」
「それはお好きにどうぞ。うるさくしてもいいけど聞こえてもいい話にしろよ」
「いや聞かれたくない……」
「それは知らん」
とエマが弁当を囲んでいるロビーは言うほど広くないので、普通に喋っていても壁際のヤマトには話が筒抜けになってしまう。また新しい場所を探さねばならんか……とふたりが無言で視線を交わしていると、の傍らに立っていたヤマトがテーブルに手をついて屈み込んできた。
「てかオレ次の授業サボるから、あとでノート写さして」
わざわざ距離を縮めてきたヤマトの声は、友達というほどでもない関係としてはやけに近くて、は思わず両腕がぞわりと震えた。テーブルについた手にはシルバーのアクセサリー。浅黒い肌からは甘い香りが漂っていた。それに、親しくした覚えもないのにノートを写させてほしいとは。
「……ヤマトって勉強どうでもいいんじゃなかったの」
「受験するような勉強はね。放課後よろしく」
「……私放課後は暇じゃないから、無理」
エマの告白に勇気をもらったは、怖がる心を奮い立たせて言ってみた。事実放課後は暇じゃないし、しかし就職クラスなので以外のクラスメイトはバイトでもない限り時間があるはずだ。どうしてもがやらねばならない理由はない。
するとヤマトは鼻で笑い、何の断りもなくの肩に手をおいてもっと近付いてきた。
「えっ、ちょっと、やめて」
「いいじゃん、って男いないんだろ」
「ねえ、ちょっと。の何を知ってるのか知らないけど、好きな人はいるからね」
「あ、そーなん。へえ、誰?」
「あんたにそれを知る権利はない」
「冷たいね〜」
「被害者ヅラすんな、サボってんのチクられたくなかったら黙んな」
我慢できずに割って入ったエマに畳み掛けられると、ヤマトはまた鼻で笑って離れていった。造作のソファにごろりと横になり、ぼんやりとした目でスマホを眺めている。
「ちょっと、なんなのあいつ」
「いやわかんない、別に仲良くないし、どういう子なのかは……」
「うちの学校あーいうの少ないから、どう対応すればいいのか迷うな……」
そもそも音羽東は昔から問題行動を起こす生徒が発生しにくい校風で、それを目当てに受験する生徒も多い。なのでヤマトは非常に珍しいタイプであり、しかしちょっとチャラめなファッションとサボり癖を除けば無害ではあるので、関わらなければいいだけの人物だった。
「なんか親が社長で、そこに就職して次期社長になるとかいう話で……」
「それでなんで音羽東なんか入ったんだろう。そういうタイプには向かない学校なのに」
「それもなんかお父さんがすごく寄付したとかなんとか」
「そーいうのって私立でやることじゃない? 県立は関係ないんじゃないの」
「いや私もよく知らないけど、そういう噂で」
ひそひそ声で話すふたりがちらちらと見るけれど、ヤマトは大あくびでスマホを見ているだけ。
「別にそんなに喋ったことあるわけじゃないのに、なんだろう急に」
「もー、ほんとにどいつもこいつも、男ってやつは。気を付けなよ、教室で」
「大丈夫、エマの話聞いて私も強くなろうって思った」
「無理すんなよ。時には引くことも大事なんだから」
仕方なくふたりはヤマトに聞かれてもいい話に切り替え、急いで昼食を終えるとロビーを後にした。
本人の言うようにヤマトは5時限目の授業には現れず、6時限目も現れず、もし彼が戻ってきたらまた絡まれるのではないかと考えたはHRが終わると急いで教室を出た。今日は足りないものを駅前のスーパーで買って、帰ったらご飯作って、先に食べて、塾行かないと。
エマの話で塾という言葉に少し緊張が走ったけれど、さすがに県立高校の校長の紹介で入ってきたなので、塾の先生たちは皆優しくて丁寧だ。女性もいるし、関西出身でいつも面白いことを言おうとする楽しい先生もいる。来月でやめちゃうけれど、塾は悪いところじゃなかった。だから大丈夫。
予備校の方はそもそも特進クラスってわけじゃないし、そのせいか講師の先生たちはどこか素っ気なかったりするし、学校で授業受けてる感覚だから人と人とのコミュニケーションは気にしなくて大丈夫。難関コースの教室はいつも殺気立ってる感じがするけど、私は関係ない。
受験生なのだから余計なことに頭を使いたくない。気を使うのも公延との生活だけで精一杯だ。
そんな風にひとつひとつ確認するように自分を宥めていただったが、今更のように思い出していた。自分はスカートの制服を着た高校3年生で、同じ高校生だらけの学校に通っていて、そこにはあらゆるタイプの人間が存在し、自分もその中のひとりだということを。
元義父と同居していた頃は日々の生活に怯えるばかりで、周りのことなど目に入っていなかった。今年の夏休みに入り事態が急転し、結婚と同居が始まってからは受験と夫のことばかり考えていた。エマは仲良しの友達だが、自分はその他の生徒たちのような「普通の高校生」の範囲から外れていると思い込んでいた。
だがそれはあくまでも学校を離れたプライベートでの話だ。毎日学校で過ごしている以上、もその中の一員であり、今日のヤマトのようなことは、プライベートが特殊な自分を避けて通ってくれるわけではない。
それを思い出したは、駅前のスーパーの豆腐コーナーで突然恐怖を感じ、血の気が引いた。手に取ろうとした豆腐の冷たさが指に痛むような気がする。まだまだ暑くて公ちゃんが冷奴ばっかり食べたがるから豆腐のストック切らさないようにしなきゃ、だからこの豆腐買わないと、と呪文のように自分に言い聞かせる。
公ちゃんといれば心配ないって思ってた。公ちゃんは私を守ってくれるから、もう元義父みたいな誰かに怖い思いをさせられることなんかないって、公ちゃんが一緒なら何も怖くないって思ってたけど、そんなことなかった。なんかよくわかんないやつはいる。いつでもすぐ隣にいる。
そして先日遊びに来た晴子の言葉を思い出した。
木暮さんのことは子供の頃からよく知ってるけど、もしちゃんがおかしいなと思うことがあったら遠慮せずに連絡してね。私は木暮さんのことを頭から信じてちゃんの言うことを否定したりしないから。だからひとりで抱え込まずに、話してみてね。
キリエ、マヤ、エマ、晴子。母を失ったにとっては彼女らが日常の「盾」だった。
けれど、永遠に彼女たちの影に隠れているわけにもいかない。自分が大人なら、彼女たちを盾としなくても物事に立ち向かえるようにならなければ、本当の意味で成人したとは言えないのではと思った。
公ちゃんと一緒にいたい。公ちゃんと愛し合えるようになりたい。でもそれは公ちゃんに守られて腕の中でぬくぬくしてる雛じゃダメだ。それは夫婦じゃない。そんなんじゃ公ちゃんの妻にはなれない。豆腐を掴んでレジに向かいながら、はまた自分に言い聞かせた。
大人になる前に、子供を終わらせよう。子供の自分から卒業しよう。話はそれからだ。