明けても暮れても

7

「正直やっちゃったな、と思うところはあるよ」

がエマに惚気ている一方で、公延はちょっと疲れた顔をして珍しく酒を飲んでいた。場所は駅前の居酒屋、目の前には中学時代からの親友とその妹。

の引っ越しを手伝ってくれた兄の赤木と、その妹・晴子は付き合いが15年になるので、この度の結婚については全て説明済み。どちらも公延のことは親戚並みによく知った仲なので、驚きはしたものの、反対も賛成もせずに困ったら遠慮なく言えと言ってくれていた。なので、ちょっとしたストレス発散に付き合わせている。

「後悔があるのか?」
「というより、勢いだったなと」
「木暮さんがそーいうの珍しいよね」
「自分でもそう思う」

兄の方は中学から大学までずっとチームメイトで苦楽をともにした間柄であり、妹も付かず離れずふたりのバスケ生活を見守ってきたので、公延が勢いで女子高生と結婚したなんていう話でも茶化したりはしない。元から堅物の兄と天然真面目の妹なので、心配そうだ。

「でもお兄ちゃん言ってたよね、ちゃんとした子だって」
「オレにはそう見えたからな。女子高生って言うけど、すごく大人っぽかった」
「まあ結婚までの1年の間に義理の父親に相当やられたからな……
「それがまず許せないんだけど」

妹の晴子は今年スクールカウンセラーになったばかり。本人は「子供の頃や10代の記憶が鮮明な今だからこそ力になれるカウンセラーとして働きたい」として日々頑張っているところなのだそうで、が元義父から受けた仕打ちにはずっと怒っている。

「だったら未成年後見人になんかならないで、さっさと出ていけばよかったのに」
「それなんだよな。近くに頼れる身内がいなかったからか、なぜかズルズルと同居が続いちゃって」
「オレは父親の方が問題だと思うけどな。連絡ないんだろ?」
「そもそも小学校低学年の時には離婚してて、それ以来まったく会ってないらしくて」

そんなとサヨをわずかでもサポートしてきたマヤはダイキの出現で疎遠になり、結局そのこともを孤立させる原因になった。サヨは自分が母、ダイキが父、が子供、という家庭を望んでいたと見られ、再婚以降は姻戚関係以外の交友関係が希薄になっていた。

ちゃん、その頃のこと今でもつらいとか、言わない?」
「今のところ。かなりキツい思いしたはずだけど、家では普通というか、穏やかにしてる」
「それならいいんだけど、ああいうのってスイッチがオフになるみたいに消えたりはしないから」
「それはそうだよな……一応気を付けてはいるんだけど、微妙にすれ違いが多くて」

の様子に目を光らせておくこと、というのは特に高梨夫婦からも言い渡されていたことだ。あんな大変な目にあったのだから、様子がおかしかったらすぐに対処するなり相談しろ。まあそれが今のところないのはが夫に恋をしているからだろうが、それはエマしか知らない。

「監視っていうと言葉が悪いが……あんまり放置でもまずいんじゃないか」
「そこはまあ、自分から進学したいって強く望んでるところを信用するしか」
「それもそうだけど、本当に18歳で結婚しちゃってよかったのかな。こんな……あ、んにゅ」

晴子は何かを言いかけて慌てて口をつぐみ、両手で押さえた。ちょっと睨んでみせた公延と兄だったが、まあ言いたいことはわかる。公延自身、自分が女子高生をときめかせる男だとは思っていない。根拠は教え子たち。

「まあそこは自立できるようになったら離婚してもいいわけだし」
「それはそうなんだけど、もし大学で好きな人とか出来ちゃったらどうするんだろうって」
「木暮と彼女の間でそれでもOKということになっていたとしても、相手は嫌だろうしな」
「晴子ちゃんだったらどう? もし18ん時に遠縁みたいな人と」
「う〜ん、それはでも、人によると思う〜」
「だからダメなパターンと大丈夫なパターンの差って」
「正直、好み」

公延と兄は思わず吹き出す。まあそんなもんだよな。

「私今になって思うと、ふざけてばかりいる人って好きじゃなかった気がするの。不真面目で、ずるを平気でするとか、物事に真剣になれないっていうのかな。そういう人は好きになれないって思ってた気がするんだよね、10代の頃。あとはまあ、生理的に苦手とかそういうのもあるから、もしちゃんと同じ立場になってしまって、だけどそういう人と結婚するしか道がなかったとしたら、進学は諦めてたと思うな」

つまり、晴子の考えが一般平均的な18歳女子高生の感性なのだとすれば、にとって公延は「好み」の範囲内にいる人物と言える。

「うーん、その好みってのも、『好きなタイプ』とはまたちょっと違う気がする」
「好みと好きなタイプが違っちゃうの……
「というより、好きなタイプってのはパターン。好みってのは単にありかなしか、みたいな」
「だからあの子にとって木暮は『ナシ』の要素がなかった、少なかった、ってことだろ」
「そうそう、そういう感じ。好きなタイプがないって人もいるしね」
「あ、オレそうかも」
「え、そうなの!?」

との「新婚生活」についての話が出るのはわかっていたので、今日の公延は好きなだけアルコール。緑茶ハイのグラスを傾けながらサッと挙げた片手に晴子は目を丸くした。

「え、意外?」
「いや、珍しいなって」
「だってその『パターン』て、髪型とか、顔の造作とか、そういうのだろ」
「まあうん、そうだね」
「これっていう決まったパターンはない気がする。さっきのありなしはあるけど」
「じゃあ木暮さんにとってもちゃんて、ナシがなかった子なの?」

唸りつつ頬を人差し指で掻くと、公延はかくりと首を傾げた。

「というか、最初に会ったのは中学生だし、社会人2年目で仕事にガツガツしてた時期だったし、性別とかまったく意識してなくて、生徒って意識の方が強くて、だから騒動の最中に再会した時は正直すごく驚いたんだよな。たった2年半くらいで大人の女性になっちゃってんじゃん、て」

しかもは1年に及ぶ召使い生活で能天気な10代の天真爛漫さを失い、高校2年生が持っていなくてもよいものばかりを身につけていた。勢い、赤木の言うような「大人っぽさ」は加速した。だから公延は今更のように早まったのではと感じているし、赤木兄妹も心配しているわけだ。

「同居を始めてからずっと、試合の3日前くらいの緊張が続いてる感じがするんだよな」
「家の中でか?」
「そう。特に向こうが家にいる時は、どうでもいいことが気になって、注意散漫になるというか」

自分の物音ひとつ、の物音ひとつがやけに神経に障る。朝やふたりが在宅の時に交わす言葉のひとつひとつにも緊張が取れないし、何も考えずに言ってしまった言葉はあとで何度も反芻して、その意味を考え込んでしまうことが多い。ましてや小さな家で、うっかり体に触れてしまったらと思うと落ち着かないし、いないとわかっていても脱衣所のドアを開ける時はいつも怖い。

「それってものすごくストレスなんじゃないの?」
「まあ、正直」
……だけどあの子が嫌なわけじゃない。状況がしんどいだけで。それがナシがない状態」
「ご明答」

赤木は頬杖をつきながら公延を指差し、公延は言いながら拍手をする。

……オレは、彼女に一切の感情を持たずに自立までを支援する人物でなきゃいけないんだよ。彼女の安全で安定した生活、何かあった時に相談できて、解決法を教えたり、一緒に探ったりできる、頼っていい相手、っていうのかな。親の代理みたいな感じ」

事実、公延に求められている役割は完全に親の代用品であり、それが必要ないなら結婚も必要がなかった。

「けど、ふたりで暮らしてて、いつまでもそんな綺麗事みたいな関係が維持できるんだろうか、って気がして」
「まあ、喧嘩や意見の食い違いってこともあるわけだしな」
「木暮さんの性格じゃ怒りが湧いても表に出せないんじゃないかな」
「自分でもそう思う」
……お前の方に下心がなくても、向こうはわからないしな」

せっかく喧嘩の方向で例え話が進んでいたのに、赤木の一言で公延は盛大にため息をついた。

「それが一番怖い」
「そういう素振りはないの?」
「まあ、オレが見る限りではな」

実際は完全に手遅れなのだが、まだ同居を始めて1ヶ月にもならないので、も態度には出さないし、幸いまだすれ違いが多いのでボロは出ていない。公延も女の子の変化に敏感というタイプではない。

「かといって、お互いまだよく知らない部分もあるだろ」
「そうなんだよな……。でもそれって知らない方がいいんじゃないかって気もして」
「お互いのことよ〜く理解して軽〜く嫌いになれるならちょうどいいのにね」

晴子の笑顔に公延と兄はため息とともに頭を落とした。ほんとその距離感よ。

「ねえでもさ、もしそんな風に嫌いになるほどのことがなくて、普通に暮らせてて、学生4年間終わって、ちゃんが就職して……ってなったら、それでも離婚するの?」

まだ始まって1ヶ月の関係でしかないけれど、その「4年後」は常に頭の片隅に居座っている問題だった。公延が少し早まったかもと思う程度には勢いの結婚だったし、かといって離婚を避けるために積極的に親しくなろうとするのも違和感があるし、どんな関係になりたいのかもはっきりと思い描けなかった。それに、例えと相性がよかったのだとしても、友人以上の好意を持ってはならない相手だとしか思えなかった。

だが、着の身着のまま逃げ出して怯えていた彼女が笑顔になるだけで心底安心してしまうのも事実だった。

なんせ公延にとっては、「先生〜この間の問題がまたわからなくなっちゃった」とメールを寄越していた真面目な中学生だった。超高偏差値というタイプではなかったけれど、これは高校でしっかり勉強する癖が付けば、難関狙いに育つかもしれないな、などと勝手に期待していた。

そして外国語を習得し、世界に羽ばたいていってほしいと思っていた。どんな国でもどんな職業でもいい、広い世界に飛び出して、思う存分可能性にチャレンジしてほしかった。

に対して抱いていたそんな期待はあの夜、汗だくで泣いていた彼女を見た瞬間に砕け散った。そしてだけでなく、娘をこんな窮地に追い込む羽目になった母親のサヨに対しても同情せざるを得なかった。とサヨは喧嘩しながらもなんでも言い合えるいい親子って感じだったのに、と思うほどに、今やっと落ち着いた暮らしをしているを見るだけでホッとしてしまう。

他人の目や通勤通学の都合もあり、最近は早朝に車の中で朝食を取りながら移動してるけれど、はいつでもほんのり楽しそうで、それを見ていると自分も穏やかな気持ちになれた。

1年間とはいえ、傲慢な元義父に召使いをやらされていたせいかは家事全般が驚くほど上手で、なので彼女の作る料理はなんでも美味しくて、それに驚くたび、公延は何も考えずに「これ美味いね」などと口走っていた。その度には嬉しそうに照れくさそうに喜んでくれる。

真っ青な顔で声も出せずに「たすけて」と空気を吐くしかなかったあの時のことを思えば、この奇妙なふたり暮らしでも彼女が笑顔になれるなら、それでいいのでは。

それが「の人間としての幸福を願う気持ち」なのか、個人に対する好意の表れなのか、そう考えてしまってはいつも「4年後」を思い描く。

「そうするのが正しい選択なんだとは、思う。離婚というか、関係解消、任務終了というか」

この結婚の大義名分はそもそもの進学であり、学生生活の安定した基盤であったわけなので、それが不要になれば関係解消するのが当然、というのが理屈なのはわかるのだが、果たして4年後まで、そんな事務的な関係を淡々と維持できるのかどうか、良くも悪くも複雑な関係にならなければいいのだが。

空気がどんよりしてきたせいか、晴子は居住まいを正すと咳払いをひとつ。

「まあでも、私は木暮さんに邪な下心がないって知ってるから、なんとでもなればって思うかな」
「そんなあ。いいのかよスクールカウンセラーがそんなこと言って」
「だって木暮さんが女子高生と合法的になんかしたくて画策したことじゃないのは真実だもん」
「それはそうだけど」
「木暮さんとちゃんが納得できるかたちに落ち着けばいいなって思うだけかな」

理解のあることを言っているようで突き放したような物言いに、兄は笑いを堪えている。妹同様、公延のことは他人として知り尽くした間柄なので、いくらいきなり女子高生と結婚しましたと言われても、相応の事情があったのだろうとは理解できる。理解できるが、そこまでだ。

どうしても、ついほんの数ヶ月前まで未成年だったが問題の中心になりがちだが、これは「夫婦」の問題でもある。独立した世帯であり、所帯であり、まだふたりでも「家族」。それは他人がやかましく指図するようなこととは思えなかった。本人たちが試行錯誤しながら築いていくものなのではないだろうか。

「いいじゃん、お料理上手な女の子と仲良く暮らせてたら、それで」
「なんかそういうのを喜ぶ男ってやなんだけど」
「そういうのを押し付けるのが昔の考え。ちゃんの持つスキルなんだから、伸ばしてやらなきゃ」
「義父のために覚えたスキルだなんてこと、早く忘れさせてやるべきだろうな」
「そーよそーよ、ふたりで一緒にやったらいいじゃん。木暮さん教えてもらったら?」
「オレもやってるって。家事は分担」

容姿はほとんど共通点がない兄と妹だが、仕草や動作はたまにそっくりなことがある。そんなふたりが同じ角度で腕を組んで顔を突き出してくるので、公延も強めに言い返す。も塾と予備校があるので、在宅時間はどちらもそれほど変わらない。なので家事に関わることはふたりで分担している。

「ただそれこそ、元義父にビクつきながらやってたせいか、料理でもなんでもすっごい早いんだよ」
「は〜その義理のお父さんだったやつ、ほんと腹立つ」
「だから夕飯とかは向こうが主体で、オレは補助したり、任せて掃除したりとか、そういう感じではあるけど」
「てか弁当作ってもらってるって言ってなかったか?」
「え!? お弁当作らせてるの!? ちゃんだって忙しいのに!?」
「いや作らせてるわけじゃないって! 協議の結果!」

酔いが回ってきたのだろうか、晴子の語気がどんどん強くなるし、兄の方はちょっとニヤニヤしているし、公延はふたりに弄ばれているような気がしてきた。ていうか弁当はおかずを任せることが多いだけで、他は自分でやってます! 自分のことは自分で!

「いいなあ〜私もお弁当作ってくれるお嫁さんほしい〜」
「え、晴子ちゃん料理上手だったんじゃなかった?」
「作れるかどうかと弁当作るのが面倒なのは別問題で〜す」
「買って済ませた方が時短になるんじゃないのか?」
「そこは節約というか、経済的な問題」
「そ、そうか、すまん、そうだよな」

そう、高校教師と女子高生の結婚というエキセントリックなネタばかりが先走るが、には当分お金という問題がついて回る。受験が終わるまではアルバイトも出来ない。公延も年相応の収入しかないため、は結局サヨの遺産を私物の購入に充てている状態だし、食品や日用品などは差し入れにも頼っている状態。

「だって車のローンあるし、なのに家買っちゃったし、家電も買ったし、素寒貧だよ」
「賃貸でよかったんじゃないのか」
「賃貸だと人の目も多いし、個室の確保が難しくて。まあ家も親の知人のものだったから安かったけど」
「いくら」
「1700」
「やす!!!」
「それローン組んでも家賃並みなんじゃないのか」
「正直賃貸より安い」

ふたりが中学生と小学生の時に両親が5000万クラスの新築一戸建てを購入した赤木兄妹にとっては想像を絶する価格だが、なにしろコネ物件。築年だけを見れば昭和の家という古物件でも、ボロ屋な外観と同じ家に思えないほど中はきれいにリフォームされている。

「一度来てくれよ。赤木は会ったことあるわけだし、晴子ちゃんにも紹介したいし」
「で、無料でカウンセリングして助けてねって言いたいんでしょう」
「他人行儀でいなければって思ってる割に夫っぽい言い方だよな。家内に紹介したい、みたいな」
「いやちょ、そんなつもりは! そんなこと言ってないだろ!」
「いいですけどね〜夫婦喧嘩したら逃げ込む先にしてくれても〜ちゃん実家がないんだし〜」
「晴子ちゃん!」

だが、それはキリエやマヤもよく言う。恋愛の果てに結婚したカップルではないので、特に女性は喧嘩でなくとも避難所がある方が安心なのでは。だいぶ酔っているけれど、晴子もそういう気持ちで言ってくれたらしい。

「まあその、それは、あります……先月いきなり生理だって言われて冷や汗出た」
「お前ひとりっ子だから慣れてないだろうしな」
「なにお前慣れてんの?」
「うちは母親が隠さない主義だったし、おかげでこいつも」
「生理は人体の機能なんだから、秘密のエロいことになってる方がおかしいです。しかも兄妹で」
「うちの母親は隠すっていうか言いもしなかったから、正直学校で習った範囲以上のことがわからなくて」
「お兄ちゃんこれやばいよ、夫としても教師としても無理すぎる」
「こんな大人に性教育してやらなきゃならないとは……
「いやその真面目な話でマジで頼む、さすがに本人には聞けない」

焦る公延に赤木兄妹は呆れて酒を煽る。自分で調べればいいだろ。

「でもさ、つまりそういう時は気遣いたいわけでしょ、家事休んでもらったりして」
「ま、まあ、それはそうだろ、普段ただでさえ忙しいんだし、体調の問題なんだし」
「なんかいいな〜。木暮さんは悩むこといっぱいあると思うけど、気遣いのある暮らしっていいと思う」
「他人と他人が暮らすんだから、どんな関係でも最低限の気遣いは必要だよな」
……そう、なのかな」

今でもにとっての「最善」は自分との結婚ではないと思っている。けれどふたりはそういう道を選んでしまった。それはにとって窮屈だったり、我慢だったり、耐えねばならないものだったりするのではと臆する気持ちもある。なのでその「気遣いのある暮らしがいい」と言う晴子の言葉が心を緩ませる。

「さっきも言ったけど、本当に嫌で耐えられない人とは暮らせないよ。ちゃんも自分の決断に自信ないところもあると思うけど、きっとお母さんの言葉を心から信じてるんだと思うな。ちゃんが本当にこの人でいいんだろうかって思っても、彼女には本気でそれを一緒に考えてくれる人はいないわけだから」

母の言葉、そして高梨夫婦や祖父母の後押し、それがの勇気の全てだった。自分の可能性に手を伸ばしてみるための挑戦には、公延との暮らしも入っているはずだ。母は亡く、父はないも同然で、けれど自分の人生を諦めないための決断。公延はそれを預かっている。

「想定外の重い荷物に感じるかもしれんが、夫婦とか、カップルとか、そういうこと以前に、お前を本心から信頼してるんだろ、あの子は。それを裏切るようなことをせずに、迷うことにも理解できないことにもちゃんと向き合っていけばいいんじゃないのか。必要なのはそういう誠実さだと思うぞ」

正直自信はなかったけれど、ほんの子供の頃から自分をよく知るふたりにそう言ってもらえると、のように勇気が湧いてくる気がした。正解はない。迷う時は迷えばいい。答えを探しもせずにその場にとどまるより、迷っても答えを求める先には必ず新しい景色がある。

「でも遊びには行きまーす。ちゃんの手料理ごちそうして!」
「わ、わかった、聞いておく」

なんだか照れているような公延を見ながら、赤木はやれやれという表情でニヤリと笑った。

「ま、オレらでいいんなら、なんでも相談しろよ。ひとりで抱え込むとろくなことにならないぞ」

顔が赤くなってきたのは酒のせいだったのか、親友の言葉に胸を打たれたからだったのか。公延はまた頬を人差し指で掻きつつ、ぼそりと礼を言った。そして早めにに相談をして、ふたりを招こう。そして自分たちの「暮らし」を見てほしい。そう思った。