きっかけは1学期末の三者面談だった。が成人したことで未成年後見人が終了したダイキだったが、同居家族で父親の立場にあるということで、相変わらず学校から呼び出しを食らっていた。もちろんそこでも就職一択なんだから面談の必要はないですよね、僕忙しいんですけど、と笑顔だった。
だが、やっぱり進学という選択肢を諦めきれなかった担任と副担任はと面談を重ねるうちに、祖父母による学費の支援の話をやっと耳にした。なのでに取り次いでもらって祖父母とリモートで面談することになったのだが、学校の先生がこんなに熱心に勧めてくれるなんて……と感激したらしい祖父母が連休を利用してやって来ることになった。
夏休みに入っていたがも登校して面談になったのだが、高梨夫婦がさんざん考えたように、学費はなんとかなっても生活費がどうにもならないという結論に大人たちは腕組みで唸るしかなくなっていた。祖父母の学費にしても、無理をして絞り出した状態。
そんなに厳しい状態なら無理をしなくても……と当然は遠慮をしたのだが、祖父母ふたりは本人に学ぶ意欲があり本当の意味での独立を目指しているというのに、それを見過ごすことは出来ない、娘の残した宝物なのだから、と言われて目を真っ赤にしていた。
この時祖父母は、自分たちの故郷である東京の下町の親戚の家に泊まることになっていて、一旦はも一緒にその家まで帰った。家主はチャキチャキの江戸っ子、という人物で、今年の三社祭でやっちまった怪我が治らねえんだ! と言っては笑うような人だった。
なので、ついの窮状を世間話と思って話してしまったところ、家主が頭に血が上ってしまい、関係者を集めろ! と大騒ぎをした。こうなっては誰も手が付けられないという申し訳なさそうな家族と祖父母は、仕方なくダイキとの実父に呼び出しをかけた。
ダイキは実家にいたとかで、母親を伴って渋々やってきた。実父の方は相変わらず拒否だったらしく、仕方なくマヤがやってきた。そして、祖父母を含めた全員が江戸っ子のおじさんに「こんな少女が困窮してるってのに、いい大人が何やってんだ」と説教される羽目になってしまった。
マヤは兄や親を説得出来ていないと怒られ、祖父母は息子をきちんと叱れと怒られ、ダイキとその母親は人でなしと怒られた。なのでもちろん、ダイキとその母は反論した。なさぬ仲の子の生活費を出してやっただけでも立派なのに、人でなしとは失礼な! そっちが感謝すべきだ! 何ィ〜てめェ何言ってんだィ!
という大惨事が、昨日の土曜。
「それこそいい大人が何やってんだよ……」
「それどうしたの、その集まり」
「お義父さんと来栖のおばあちゃんはそのまま帰って、私とマヤちゃんで逃げてきた」
「それが昨日で、なのに今日、家にダイちゃんとふたりだったの? マヤさん帰ったの?」
「そう。具合悪そうだった」
「んも〜マヤさんも何やってんのよ〜」
そんなことがあったのでダイキは完全に怒髪天を衝いており、今日の夕方になって実家から戻ると、お前の親戚はなんなんだ、と嫌味を言い始めた。しかし下町の親戚とは普段付き合いのないはよく知らない人々であり、それをぼそぼそと言ってしまったところ、謝罪しないのか、とダイキが怒鳴り始めた。
確かにそれまでの、そして殆どの場合においての来栖ダイキは、こんな風にキレたり暴れたりしがちな人物ではなかった。だが、逆らえないを召使い同然にして暮らした1年が彼を増長させ、とうとう爆発した。
彼にとって1年間貯めに貯めたストレスである、という「無駄にリソースを浪費する存在」に対する負の感情の爆発だった。内容は意味がなかったし、そのほとんどが言いがかりであり、侮辱であったわけなのだが、恐怖に竦み上がったが何も言わないし動けないので、今度は物を投げつけてきた。
「えっ、怪我は? なに投げられたの?」
「あ、それは大丈夫、腕で防いだし、ティッシュとか、リモコンとかだったから」
「いやリモコンはまずいだろ!」
幸い怪我はなかったけれど、がきちんと片付けていたせいで投げるものがなくなったダイキがテレビを蹴って暴れ始めたので、その隙に飛び出してきた。けれどすぐに追いかけられたらと怯えたは、マンションのすぐ隣にある会社の植え込みの後ろに潜み、20分ほど息を殺して待った。だがダイキが追いかけてくる様子がないので、走ってバスに飛び乗った。
乗客がふたりしかいなかったバスの中で、は泣いた。怖くて、頭にきて、悔しくて、泣かずにはいられなかった。それが少し落ち着いたところで手の中にスマホがあることを思い出した。バスに乗った時にそれで料金を支払ったというのに、怒りと恐怖でそれを覚えていなかった。
スマホの待受は、中学生の時に母やキリエたちと行ったテーマパークでの写真だった。写っているのは母と、キリエとシュウジ、そして笑顔の。この時楽しかったなあ、言わなかったけど、私めちゃくちゃ楽しくて、嬉しくて、幸せだったんだよなあ。そう思ったらまた泣けてきた。
だがきっとキリエなら、彼女なら力を貸してくれるに違いない。待受を眺めていたはモニタに映るキリエの笑顔にそんな希望を感じ、高梨夫婦の住むマンションに向かうため、バスを降りた。そして真夏の深夜を走った。暑くて、汗だくで、苦しかったけれど、自宅にいるより心が楽だった。
「だけど、ごめん、私たちも今すぐに全て解決する方法がわかんないの」
「助けたい、すっごく助けたいんだけど、まだいい方法が見つかってないんだよ」
「いやキリちゃんとシュウジくんには既に助けてもらってるし……」
「んにゃ、助けるって言っても、何も問題は片付いてないじゃんよ」
確かにはもう未成年ではないので、義理の関係に当たるダイキのブチギレは虐待には当たらないのかもしれない。けれど暴力であることに変わりはない。
「でもなんか、ちょっと諦めついたかも。こんな怖い思いしてまで進学しても気持ちがついていかれないし、いつまたあんなふうに怒鳴られるかって思いながら受験勉強なんか出来るわけないし、もう少し、もうちょっとだけ自分の可能性に挑戦してみたかったけど、就職するしかないかなって」
瞬間、背中を丸めていた木暮が顔を跳ね上げた。かつての自分と同じ望みを抱いたが、それを諦めるしかないということが、彼の体の真ん中を強い力で締め上げた。人は簡単に少年よ大志を抱けと言いたがるが、多くの場合の「大志」は俗な欲望であり、本当の意味で大志に値する人間になろうと望める人は少ない。もしかするとはそんな数少ない少年なのではないのか。
「先生の高校ってどう? 就職の子、多い?」
「え、あ、そうだね、うちは大学進学率高くないから、専門と就職が多いよ」
「そっか、みんなどういうところで働くの?」
「ええと、大手チェーンのスーパーとか、飲食店とか、地元の中小企業とか」
「そっか……」
海外で働きたいという夢を持っていたから見れば、それは張り合いのない仕事に思えただろう。人の暮らしに寄り添い、地に足のついた職業なのだとは思えないに違いない。それがありありとわかるので、木暮と高梨夫婦は喉が詰まって仕方なかった。
わかる、わかるよ、そういう身近な仕事じゃなくて、君は高いところに手を伸ばしてみたかったんだよな……! どこまでその手が届くのか、出来るなら掴みたい、自分だけの高みを目指したかったんだよな……!
だが気落ちとともに気が緩んだのか、は大あくびをして目を擦った。
もちろんダイキのもとになど返す理由はないので、シュウジが和室に寝床を用意し、は勧められるままに眠ってしまった。ダイニングに残された大人3人は俯いたまま顔が上がらない。なのでキリエは冷蔵庫からチューハイを3本取り出すと、テーブルの上に並べた。
「公ちゃんも泊まっていけば」
「……そうするか」
「じゃあ公ちゃんとオレは物置で寝ますか」
「物置言うな」
高梨夫婦の住む2LDKの部屋は外廊下側に部屋があり、そこは基本的にふたりの服や日用品のストック置場になっていた。普段夫婦はダイニングの隣のリビング代わりの和室に寝起きしているのだが、がそこで寝ているので、今夜はキリエが和室、シュウジは通称・物置で木暮と寝ることになった。
とはいうものの、3人は眠くもならずに酒を飲むだけ飲んで、久しぶりに酔っ払ったシュウジが船を漕ぎだしたところでお開きになった。シャワーを借りた木暮は物置に敷かれた布団に横たわり、ぼんやりと天井を見上げていた。あまりの展開に感情が少し麻痺している気がした。
世間という広い分母で見れば、家庭不和などありふれていて実例には事欠かないわけだが、それを目の当たりにするのは初めてだった。が義父に暴力を受けたその現場を見たわけでもないのに、なぜかドキドキして、全身にぼんやりとした痛みを感じるような気がした。
高校時代に殴り合いの喧嘩に巻き込まれたことがあるが、あの時は怖くなかった。まずいことになったと焦る気持ちはあったけれど、恐れや恐怖はなかった。だというのに、今はなぜかの感じた恐怖を自分も感じているような気がして仕方なかった。そして、早くそこから逃げ出したいと思った。
翌月曜の朝は連休と夏休みで全員休日だったし、前日の疲れもあってぐっすりと眠り込んでいた。だが朝の7時頃にの携帯が喚いたので、キリエも聞き慣れない着信音に驚いて飛び起きた。
そして15分後、今度は木暮とシュウジがキリエに叩き起こされた。電話はの祖父母からで、一昨日のことを案じつつも今日帰るという連絡をしてきたのだが、に昨夜のことを聞かされると、今からそっちに向かうと言い出した。ので、全員起床。全員顔が腫れぼったい。
東京の下町から高梨夫婦のマンションまではどんなに急いでも1時間半はかかる。なのでその間に全員眠い頭を起こし、昨夜の残骸がそのままになっていたダイニングやらを片付け、木暮が奢ってくれると言うので、ファストフードのモーニングで朝食を済ませた。
最寄り駅からはタクシーで来たという祖父母が到着すると、ふたりは木暮や高梨夫婦にペコペコと頭を下げて恐縮しいしい、もうどうしたらいいかわからないと正直に肩を落とした。
「私らの住んでるところは本当に田舎ですんで、そりゃは暮らせません。コンビニに車が必要なんです」
「私たちと一緒に暮らしたところで、この子が進学できるわけじゃありませんしね」
「それに……お恥ずかしい話ですが、息子に手がかかるもので……」
都合3日間も東京に出かけたまま帰ってこない両親に対し、の叔父夫婦は怒って電話をかけまくってきたそうな。夏休みに入って全員子供がいるのに、その面倒を自分たちに全部やらせるなんて何を考えてるんだ、と怒鳴られた。祖父母いわく、言うこと聞かないと介護してやらねえぞ、という理屈らしい。
「ま、私らがどれだけ手助けしたところで、介護なんかやりゃしないでしょうけどね」
「それでも孫はかわいいもんで、あの子たちが小さいうちだけですよ」
木暮も高梨夫婦も笑えない。
というか木暮は初対面なので、今更ながらに自己紹介が始まり、高梨夫婦が大袈裟に褒めたので、祖父母は初めて楽しそうに顔を綻ばせた。身近にはろくでもないやつばかりだが、木暮はどこを切り取っても、ザ・好青年。
「まったくみんな公ちゃんのようならこんな揉め事もないんですけどねえ」
「ほんとよ。シュウジさんも優しそうで、キリエさんはよかったわね、いいお相手で」
「はい、おかげさまで。もういっそ公ちゃんと結婚しちゃいなよとか思っちゃって」
余計なこと言いやがってという顔をした木暮とシュウジは作り笑いだったのだが、そこは祖父母も古い人間である。身寄りのない女性が遠縁の先生に嫁ぐ、なんて話に違和感はないらしい。おばあちゃんが身を乗り出す。
「そうそう、私らが若い時分はそういうことは珍しくなかったんですけどね。そもそも女の子が大学に行くってことすら特別なことだったし、私の高校時代の同級生がやっぱり先生と結婚したはずですよ。大学の先生でね、教え子の中にひとり女の子だったんですけど、彼女が先生に惚れ込んじゃって、相手はいくつくらいだったかしら、かなり年上だったと思いますよ」
木暮とシュウジは居た堪れなくて顔をそらしていたが、とキリエは興味津々という顔で身を乗り出している。おばあちゃんの同級生は今で言う担当教授に恋をし、ほとんど押しかけ女房で結婚したという。
「反対なんかされませんよ。大の大人が独身て方が恥ずかしい時代だから、先生の方もお身内の方が乗り気でね。女の子の方だって偉い大学の先生のお嫁さんなんて誰もが認める良縁で、自慢できたはずですよ。親御さんだって願ったり叶ったり。同窓会なんかだと、そういう旦那さんを持ってる人は羨ましがられてね。昔は夫が出世してるかどうかとか、子供の成績がいいかとか、そんなことばかりが自慢の種だったわね。あの頃の女は自分自身にそういう価値を持てなかったから、身近な人を飾りにするしかなかった」
はっきりとは言わなかったけれど、そうして付加価値を持てない時代の女性として生きてきたおばあちゃんにとって、それを掴めるはずのが道を閉ざされようとしていることは、自身の苦しみかのように感じるのかもしれない。自分が受けた苦しみを次の世代に繰り返してほしくない、そんな思いで。
「……だけど当時は結婚したらそれで終わり。奥さんになって旦那さんを支えて子育てをして……ってそれしか許されない時代だったからね。だからが望むなら、学校に行かせてやりたいんですけどね……」
だが、しんみりしたところで現在直面している問題の解決にはならない。いい加減それを無視出来なくなってきた大人たちは、一応大人であるをちらちらと見つつ、ああでもないこうでもないと思いつきを言っては自分で潰していった。さてもうダイキのいるマンションになど帰せないが、じゃあどこで暮せばいいと言うのだ。
そうこうしているうちに昼になってしまったので、おじいちゃんが奢ると言い出し、出前の蕎麦を注文して食べていた。するとの携帯にマヤから着信があり、えらい剣幕のダイキから電話が来たが大丈夫かという。仕方なく前日のことを説明していると、今度はキリエの携帯にダイキから着信。またブチギレている。
しかしそんなブチギレているダイキのところにを返すわけにもいかないし、マヤは自分がをあの家に帰したからだと半泣きだし、いよいよ高梨家は混沌としてきた。
そういうわけで7月の連休最終日、なぜか高梨夫婦のマンションに関係者が集合してしまった。とその祖父母、高梨夫婦、来栖親子、樫井マヤ。ちなみにそういうわけでの出生時の名は樫井、現在は来栖、母の旧姓で言えばである。
だがこれで大の大人が雁首揃えて冷静に感情的にならず、建設的な話が出来ると思ったら大間違いなのである。その中で一番他人である木暮は帰るに帰れなくて、自分はこんなところで何してるんだろう……と遠い目をし始めた。ちゃんの義父だとかいう人、何言ってるのか意味不明……そのお母さんもなんか言葉遣い間違っててイミフ……てかこんな状況でもちゃんの実のお父さんて無視なんだ……
そして、これじゃちゃんの母親は死んでも死にきれないよな、と全ての原因となってしまったサヨのことを思った。どれだけ義父と上手くいかなくても、彼女さえいれば進学や独立の話はもっと簡単だったはずだ。それに、深夜に女の子が着の身着のまま飛び出してくるなんてことも、せずに済んだはずだ。
成人したってこれじゃな……と呆れる気持ちが出てきた木暮の目の前で言い争いはヒートアップしていく。
「ていうかおかしいでしょうよ、なんでオレが性的虐待なんてしてることになってんすか!」
「いやその話どこから……」
「あんたでしょキリエ! なのにそこの家庭教師と結婚させようって話なんでしょ、みっともない」
「いやまじでおかしくないすか!? ガキに興味ないオレが性的虐待疑われてんのに、結婚はいいわけ!?」
「おばあちゃん、どこからそんな話」
「あんたのお母さんよ!」
突然渦中に放り込まれた木暮は目を白黒させてシュウジにしがみついていた。どうやらダイキの母であり、キリエの祖母である女性は、キリエの母でダイキの姉に当たる人物に雑な噂を吹き込まれ、それをそのまま息子に横流ししたらしい。というかキリエはそんなこと話してないと喚いている。
「いや、まあ〜この1年の間には〜オレたちが話してるの聞いちゃったってこともあったのかも〜」
「なんでそれをこんな息子溺愛してる人に言っちゃったんだ……」
「キリちゃんのお母さん、良くも悪くも何も考えてない人だから〜」
今日のこの惨事はまあ、そういう「人の口に戸は立てられない」が呼んだ不幸と言えよう。
「いや別にオレはサヨと結婚しただけで他はどーでもいいわけですよ! だけどね、ろくに働きもしないくせに金ばっかり使いまくるやつをね、養ってきたんですよオレは! いい加減こっちだって限界だって話なんすよ!」
それに対してキリエやマヤが召使い同然にこき使ってたくせに、とか、昨日だって暴力を振るったじゃないか、と反論したことで言い合いはさらに激化。というかダイキとその母の主張の中心は自分たちが被害者だとするもので、キリエたちが逆だと言ったところで聞いてもいない様子。
「だからね、サヨの遺産だって、あれはオレが働いた金を家計に入れてたから出来た貯金なわけですよ。しかもサヨが貯金してたのはオレの仕事のためとか、ふたりの将来のためとかそういう目的だったわけで、子供にやる小遣いってわけじゃないんですよ。それを法律がどうとかで半分ずつっておかしいでしょ。そこは遠慮するのが礼儀ってものでしょ。そんなに小遣いが欲しいならバイトしろって話でしょ。その上オレの金でのんびり高校生なんかやって、さらに大学行きたいとか図々しいにも程があるんすよ。てかこの1年、お前の生活にオレがいくら使ったと思ってんの? それ返してくんない? サヨの遺産も返してくんない? あれオレんだから。お前が働いた金じゃねえんだからさ!!!」
ダイキが真っ赤な顔になって膝を立て始めたので、木暮とシュウジも腰を浮かせた。幸いふたりの方が上背があるし、なんならキリエも混ざればひとりくらいは制圧できるはずだ。というかたぶん真っ先にキリエが突っ込んでいくはずだ。正直そっちも止めたい。
「返せ! オレの金を返せ! オレの家から出ていけ!!!」
の祖父母は唖然として腰が抜けている。マヤは泣いている。キリエはめげずに反論している。ダイキの母親は息子の体を撫でさすりながら嘆いている。そういう中で、木暮は不意にと目が合った。激論が続いていたのですっかり当事者のことを忘れていた。
の目は泳いでいたが、表情はほとんどなく、青ざめていた。キリエの好む原色の服で、膝に置いた手をギュッと握りしめ、まっすぐに木暮を見ていた。
そして、口元がかすかに動いた。声は出なかったけれど、その唇は確かに言った。
たすけて
次の瞬間、木暮との視線の間にダイキが踏み込んできた。木暮は迷わずその前に躍り出て、を背中に庇った。シュウジとキリエも一緒に立ちはだかったので、ダイキは足を止めたが、真っ赤な顔で「フシュー」と音がするほど、荒い息を吐き出していた。
木暮の脳裏には、サヨと笑い合うの笑顔が浮かんでいた。